illustration by popo
●side N + ●side O
●side N
サクサクと雪を踏みしめて大野さんに付いて行く。
結局一日じゅう雪だった、こんな日は、これからもそんなにない気がする。
歩道と車道の境目が微妙で、きっと一人なら何かに足を突っ込んでただろうな・・・
いつも通り慣れているのに、ほんの数センチ雪で隠されただけで、どこを歩いているかもわからない。
なんでもなくてもコケる僕だもの、大野さんを巻き込んで転んだら恥ずかしいから、本当に慎重に足を出す。
でも大野さんが踏みしめたあとだから、っていうこの安心感・・・
シュッ、シュッと大野さんのダウンコートが歩くたびに軽い音を立てる。
・・・静かでそんな音までが聴こえることに驚いた、雪っていろんな音を吸い込んじゃうのかな。
その衣擦れの音が、さっきまで居た大野さんの部屋にリンクする。
ストーブの上の大きなやかん、その中で沸いていたお湯の音・・・・
膝立ちになる僕、脱がされたスマーフ・・・、ウソみたい。
信じられない、腹筋だって見せられないって思ったのに。
部屋の中で、大野さんが言った言葉が不意に浮かんで僕は照れた。
―もう頭ん中で、何べんお前の服脱がしたと思ってんだ・・・
そう言われたとき、
一番ドキドキした。
そうなの?
大野さんだって僕を・・・そうなんだ、と思うと脚をこすりあわせたくなるような不思議な気持ちがして。
あの言葉を言われた瞬間、ぞくぞくっと身体が痺れちゃって・・・
「何?」
「えっ・・?」
信号待ちで大野さんは少し振り返って横顔を見せる。
ツンと跳ねた髪が、冷たい風にフルリと揺れて。
「手が急にぬくくなった」
「わわっ・・、別に」
まさかさっきの・・・触ってもらってた時のことを思い出してるなんて言えない!
僕は慌てて首を振った。
クスッと笑って大野さんはまた前を向く。
後頭部に、少しもじゃっとした髪、あれは・・・枕のあと・・・?
ヒミツ、かな、大野さんと僕の秘密?
僕はのぼせそうになる顔を隠すように、傘を前へ倒す。
途端に二人のつないだ手に、みぞれ氷のような雪が落ちてきた。
「わ!冷た!ごっ、ごめんなさいっ、濡れちゃった!どうしようっ、あの、はんかちっ」
「別にいいよ」
手を離してポケットをかき回す。
リュックにも入ってるけど、ポケットの方が出しやすい。
「お前、ハンカチとか持ってるの?ポケットに?小学生みたいだなぁ」
大野さんはケラケラっと笑うと、ジーンズで拭った。
その通りポケットからスマーフのミニタオルを取り出して、大野さんと自分の手を拭く。
鈍くさい僕には、いつの頃からか母さんがしのばせたハンカチが常に二枚、自分で用意するようになってからもそのクセが抜けない。
それを畳んでポケットに仕舞えば、目の前に差し出された、箱・・・
箱・・・?
「俺はポケットにこれしか持ってない」
真顔の大野さんは、
手のひらにあのコンドームの箱を乗せていた。
「・・・・へっ、なんで?!」
「出掛けにタンスへ放り込むつもりで忘れてた」
「もう、・・・落としたらどうするんですか」
「次の休みに使うんだから?だろ?」
「え?」
澄ました顔で信号を見つめる大野さんの口角が、きゅっと上がり、もう止んだなと空を見上げ傘を閉じた。
車道を走る、大きなトラックがジャリジャリと凍りかけた雪を踏んで横切った。
それが通り過ぎると横切る道の信号がため息をつくように黄色へ、そして赤へと変わっていく。
コロコロコロ・・・・
音が聴こえるよ?
大野さんの手のひらの上で、転がされ放題の僕の音・・・
何にも知らないと思って大人ぶっちゃって・・・そりゃ知らないけどさ、意地悪なんだから!
勢いよく傘を閉じる僕を大野さんはニヤニヤと見た。
「百面相だなぁ、お前。ほら、行くぞ」
再び差し出された手を、すぐに掴むのがなんか悔しい。
「・・・。」
だって、
なんか、
すぐには、
ちょっと、
意地を張った僕の手を、大野さんは奪うようにギュッと握った。
心臓が跳ねあがる、とっさに手をひっこめたけど束ねられた指先はぜんぜん抜けなくて。
掴まれた早さ、握り込まれた強さに・・・
体ごと抱きしめられたみたいな錯覚。
きっと。
あぁ、僕はホントに大野さんが好きなんだ・・・、まいっちゃう・・
●side O
幼稚園の頃から通い慣れた櫻井家への道も、雪に覆われれば勝手が違う。
あと2回、角を曲がればその門構えが見える場所まで来た頃には、雪の積もり方が違うことに気づいた。
こっちの方が雪がゆるい。
家を出た時にはサクサクと踏みしめていた雪も、今はジャリっと音を立てて潰れていく、じきに凍りそうだ。
どんなに気を付けようとも、普通のスニーカーにその雪はどんどん凍み込んで、まるで氷水の中を歩いているようだった。
たぶんカズの靴の中もひどいことになっているはず。
家に着いたらすぐに温めろって言わなきゃな・・・
暗がりの中、雪道ですれ違う人は各々自分のことに精一杯で、誰も俺たちには見向きもしない。
カズも転ばないように歩くことに必死だが、俺は今日、部屋で過ごした時間をなんとなく思い浮かべながら雪を踏んでいた。
カズの恥ずかしそうな顔や、薄く開いた唇、密着したときの思いがけない肌の熱さと、・・・声。
・・・漠然と、いつ俺たちは進むんだろうって思ってた。
何がきかっけで、どんな言葉で俺はカズを抱くことになるんだろうって。
だいたい、カズがそれを望んでいるのか・・・、抱きしめてキスをして、そこから先を。
先を望む俺の気持ちをどうやって伝えたら・・・
― 大野さんは、僕が子供だから、男だからキスだけなの・・・?僕に何も魅力がないからっ・・・
そう言って涙を浮かべたカズが正直に言ってくれたから、俺たちは一歩進んだ。
朝、家を出る時、今日こうなるなんてきっとカズは思いもしなかっただろう。
「・・・。」
「一生懸命歩いてると、あったかいですねぇ」
後ろからカズの声。
赤いダッフルコートに包まれたカズは白い息を弾ませた。
街灯の下でもわかるニコニコと笑う顔を見て、ふと胸が苦しくなる。
「大丈夫ですよ僕、転びませんからね?」
あぁ、
・・・俺は、
俺は、大切にしよう、二宮を。
握った手に力を込める。
どうやって伝えたらいいのかわからない、やり方もわからないけど・・・
ずっと大切にしよう。
見えてきた櫻井家の玄関を確認して、ちいさく深呼吸をした。
+++++++++++
「・・・やっとついたぁ、ついたら急に冷たく感じません?」
門柱の前でびしゃびしゃの靴を二人で傾けながら、眉を下げて笑い合う。
「足ン中、お前どう?」
「んふふ、すごいことになってる・・・、感覚ないですもん」
「そりゃひどいな、部屋入ったらちゃんと温めろよ」
「はい」
上目に視線を寄越したカズが、名残惜しさたっぷりで顔がニヤけそうになる。
何となく、向かい合わせになってつないだ手を離しそびれていると、玄関が開いた。
「‥‥カズ、遅いわ!」
エントランスの明かりに照らされた姿は、翔ちゃんだった。
何だかふんわりとしたフォルムをしているなと思ったら、はんてんを着ているからのようで・・・。
家の明かりが大きく漏れて、白い雪をオレンジに照らす。
久しぶりだ、翔ちゃんち。
「何時だと思ってんだよー」
いかにも受験勉強といういで立ちで、翔ちゃんは仁王のように腕を組んでいる。
まるで門限に遅れた娘を待っている父親だ。
― まぁ、近いんだろうな、気持ちとしては。
俺は軽く手を上げて翔ちゃんに挨拶するとカズの背中を押した。
「送ってくれてありがとうございました、帰り、気を付けてくださいね」
「うん、・・あぁ、お前絶対」
「解ってます、足でしょ?すぐお風呂はいるから・・・、それに汗いっぱいかいちゃったし」
後半を小さな声で言うと、勝手に赤くなって下を向いた。
なんだよ、
・・・めっちゃ可愛いやないか・・・。
翔ちゃんさえいなかったら抱きしめちまうとこだわ・・・。
そんな俺の雰囲気を察したのか、カズは慌てて翔ちゃんの方を向く。
「っ、何時ってまだご飯の前でしょ、いつもこんくらいじゃんか」
「まぁ、いいけどさ、智、・・サンキュ、おかげで迎えに行かずに済んだわ」
尖らせたカズの口元を見た翔ちゃんはすぐに折れた。
今日の電話越しの時もそうだったんだろうな、相変わらずカズにはめっぽう弱い・・・、いや、みんなカズにはどうも弱いんだけど。
「いや、俺も飯買いにコンビニには行くつもりだったから」
「え?飯ないの?だったら家で食ってけよ、なぁ?カズ」
翔ちゃんは慌てて俺を引き留める。
靴を履いて俺たちの方へ出ようとして、少しつまづいてよろけた。
「兄ちゃんっ、滑るよ!凍ってるかもしんない!」
「だからさぁ、お前は受験生に向かって滑るとかナシだし!」
その時、ふと変な音がして視界の上方で何かが動いた。
翔ちゃんは玄関屋根の下を出て俺たちの方へ向かってくる。
動いたものは黒いひと固まりになって、ズルリと暗闇へと放り出された。
「翔ちゃん!上!」
反射的に地面を蹴った。
上を見上げた翔ちゃんは暗がりに目が慣れていない、すぐには「何が」かわからない。
「落ちるっ・・・!カズ、来るなよ!」
俺はカズの横をすり抜け突進し、そのまま翔ちゃんへ体をぶつけて家の方へと突き飛ばす。
屋根を滑って落ちて来たのは雪で、それはドドドッと鈍い音を立て俺の背中を叩いた。
重っ・・・
水分をたっぷり含んでいるのか雪は思ったより重くて、膝をつく。
俺だけか?俺だけだな?
カズはとっさについて来てないな?
ゆっくりと立ち上がり背中の雪を背面に落とした。
「・・・・、マジで?ちょ、なに?」
「はぁ・・・、はは、別にかばう程でもなかった。雪だ、屋根のが落ちて来た」
家の中のたたきまで突き飛ばされた翔ちゃんは、肘をついて起き上がり、
目をくりくりさせてから苦笑いを見せる。
「・・・っんもぉー!!滑るとか、落ちるとか、マジ勘弁・・・!」
「あ、すまん、禁句だったな」
「俺あと1週間だよ?・・はぁ、なんなんだよ今日は!・・・あ、お前大丈夫か?」
「ああ、ちょっと濡れただけだ」
どうせ足もぐっしょり、さっきカズの傘から落ちた雪で袖も若干冷たいし、でもあとは帰るだけだしな。
パタパタとスリッパの音がして、家の奥からエプロン姿のおばさんが出て来た。
翔ちゃんの声で何事かと思ったんだろう。
「やだ!もうどうしたの?」
すっ転んでいる息子とびしょ濡れの俺に目を丸くして驚いたおばさんは、俺を見てから視線をふっと伸ばす。
あ、カズは・・・?!
「おい、カズ」
「大野さぁん・・・」
振り返った庭で情けない声が漂う。
カズはちょうど立ち上がるところで、・・・全身ずぶ濡れになっていた。おい、お前には理由がない、ずぶ濡れの。
「え?お前雪かぶった?」
「・・・違います、勝手に・・、勝手に!コケたんですよ・・・。兄ちゃんを助けようって思って・・・」
ダッフルコートから雪水を滴らせてカズは濡れそぼっていた。
どうやったらそんな濡れんだ・・?お前が突っ込んだのは流氷の間か・・・
「あ、母さん。飯って智の分くらいあるよね?」
「そりゃあるけど・・・、それより大野さん、カズちゃん、そのままじゃ風邪ひくから、ほら、いらっしゃい」
おばさんはホッとしたように笑うと、
くるりと背を向けて廊下の途中のドアを開けた。
「二人ともお風呂入んなさい、すぐ用意するから」
つづく
*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆
母さん、お風呂はまずいです(〃∇〃)←まずくない
ほんの少しの時間一緒に歩いているだけでも
好きな気持ちが募る乙女なカズ、
何でもない時にふっと湧き出てくる愛しい気持ちはお互いに( ˘ω˘ )
方法なんかまだ知らないけど、カズを大切にすると誓う大野さん・・・・
大野さんの歩幅にカズは追いつかなくてチョコチョコ歩き
え?もうどうだろ、私の脳内の画についてきてます?みなさん(・∀・)
遠巻きにひそひそしないで(笑)
翔にいにはんてんを着せたのは、翔ちゃんの「かいまき」愛が可愛くて( *´艸`)♡
翔さんて衣装の端っこや紐をしょっちゅうイジイジしてるねー
何か布モノ触ってないと寝られないヒト族な翔さんやばい!
あの完璧なサクライショウが何か触ってないと寝れないとかだったら・・・・っ
はぁ♡
ニノのパジャマの裾の縫い目のかたいとこを、
クニクニしながら眠りこける翔さん妄想激萌え・・(萌げろ)
だって翔さん敏感肌だし(ぽりぽり見るとしんぱい化繊がにがて?)
ニノの柔肌用極上コットンのパジャマは必須、もちろんおソロでさあ・・・・
ああもお♡向かい合ってちょびっといじいじしながら寝るんがデフォな翔さんが浮かぶぅ(*´ε` *)
翔ニノはいまはやりの、フェレットハートで寝てて(*´Д`)
ぎゃんかわ
ブギ、再開にたくさんおめでとうをありがとうございます
愛されてるこの5人が愛しくてたまらないです