(前編より)
すると、彼女は…
私のミトンを受け取り、片方の手に持ち、空いたほうの手を
「えいっ。」
と言いながら私の首に押し当ててきたのです。
白くて細い指から伝わる予期せぬ冷気に思わず
「ひぁぁぁっ!」
と悲鳴を上げのけぞる私。しかし彼女は押し当てた手を離さず、
「あっはは。冷たい?やっぱり首ってあったかいなぁー。」
とコロコロと笑うのです。しかしながら「おフザケ」はここまでで、ぱっと私の首から手を離し、「ごめんごめん、ありがとう」と言いながら笑顔で手袋を片手にはめる彼女を見て、
(ああ、この人のこうゆう活発で懐っこい態度に、みんな惹かれるんだろうな…)という考えがふと頭に浮かびました。
そんな私をよそに手袋をはめ終わった彼女は素手の方を歩いている私側に残しておりました。私も彼女の側は素手。そして私が「両手、入れられるよ」と言おうとする前に
私の手をとり、そのまま私のダッフルコートのポケットの中に「きゅっ」と入れたのでした。
「これで駅まで帰ろ。あー、しーちゃんに救われたー。」
2人分の手を収納した私のコートのポケットはちょっと不格好でしたが、彼女の手の存在が
(誰かと、しかも同世代のコと手を繋ぐなんて久しぶり…)
と、不思議と懐かしい気持ちを沸きおこさせたのでした。夕べ観たテレビが面白かった、とか英語のミニテストが難しかった…、など他愛ない話をしながら歩く彼女の冷たい指が徐々にあったまっていくのを感じながら駅まで向かいました。
駅でお別れをして、彼女の手が離れた後も私は返されたミトンを握ったままでした。コートのポケットに再びミトンごと素手を入れ、何となく気恥ずかしい、照れ臭い気持ちがなかなか消せないでいたのです。
さて、翌日の帰り道はよく一緒に帰る友達「みっくん(♀)」と一緒に帰りました。みっくんは高校時代にとても仲が良かったお友達で、ショートカットの似合うボーイッシュでクールな方でした。ちょうどこの頃は高等部1年生でしたので、みっくんとお友達になって半年ほどの時期です。
昨日こんなことがあってね…と彼女の話をしはじめた瞬間、
みっくんの顔が心なしか険しくなったのです。
後編につづきます。
それでは、本日はこのあたりで。